イエスタデイをうたって|青春は終わった、でも大人にもなれない僕らの不確かな日常

深夜にふと目が冴えて、部屋の隅に積んである漫画を手に取ることがある。
何度も読み返しているはずなのに、気づけばまたページを開いてしまう。
「イエスタデイをうたって」は、まさにそんな作品だ。

青春はとうに過ぎたのに、社会人として大人になりきれない。
心の奥に未練を抱え、前に進みたいのに立ち止まってしまう。
誰もが一度は経験する“宙ぶらりん”な時間を、この作品は静かに、けれど痛烈に描き出している。

私はこの漫画を読むと、いつも自分の二十代前半を思い出す。
あのどうしようもなく曖昧で、でも確かに濃かった時間の感覚が、ページの隙間から滲み出てくる。
今日はその魅力を、物語や登場人物、そして私自身の体験を交えて語っていきたい。


青春の余韻と社会人の現実

この作品のテーマは「青春が終わった後」だ。

多くの漫画は、学生時代を舞台に友情や恋愛を描く。
だが「イエスタデイをうたって」は違う。
大学を卒業して、社会に出た瞬間に訪れる空虚さに焦点を当てている。

主人公の魚住陸生は、就職活動を終えても定職につかず、コンビニでアルバイトをしている。
将来の展望はなく、夢も明確ではない。
ただ、かつて好きだった同級生・森ノ目榀子への思いを引きずりながら、日々を漂っている。

私はこの陸生の姿に強い共感を覚えた。
社会に出たはいいが、やりたいことも、できることも見つからない。
学生時代の延長線上のような気持ちで過ごしていた自分自身と重なるのだ。


あらすじに漂う不確かさ

物語は、陸生を中心に進んでいく。

ある日、彼は不思議な少女・野中晴と出会う。
彼女はカラスを連れて歩き、どこか自由で、どこか寂しさを背負っている。
榀子への想いを引きずる陸生と、彼に惹かれる晴との関係は、はっきりとした答えを出さないまま揺れ動く。

さらに、榀子自身も過去の喪失から抜け出せずにいる。
三角関係のようでいて、実際にはそれ以上に複雑な感情の絡み合いが描かれる。

私は読みながら何度も思った。
「誰が正しいわけでもない。ただ、それぞれの心が揺れているだけなんだ」と。
その“答えの出なさ”が、この物語のリアリティを際立たせている。


登場人物の魅力と矛盾

魚住陸生

彼は優柔不断で、何かを決めきれない男だ。
しかしその曖昧さが、現実の人間らしさでもある。
私自身も、二十代の頃は「選ばないこと」を選んで逃げていた気がする。

野中晴

彼女は無邪気で明るく見えるが、実は深い孤独を抱えている。
愛情に飢え、それを必死に求める姿が痛々しくも愛おしい。
私は彼女を見るたびに、誰しもが持つ“孤独の叫び”を突きつけられるように感じた。

森ノ目榀子

榀子は落ち着いていて理性的に見えるが、過去から解放されずにいる。
陸生にとっては憧れの象徴でありながら、決して手が届かない存在だ。
私は榀子の選択を「残酷だ」と思ったこともあるが、それがまた彼女の人間らしさを表していると思う。


私の体験談と重なる感覚

「イエスタデイをうたって」を読むたびに、私は二十代の自分に戻る。

就職活動で内定を得られず、アルバイトを転々としていた時期。
周囲の友人たちは次々と社会人として歩み始めるのに、自分だけが取り残されていく感覚。
心のどこかで「まだ青春の延長線上にいる」と思いながらも、大人としての責任を突きつけられる日々。

陸生が榀子への想いを捨てきれずにいる姿は、私が過去にこだわり続けた経験と重なった。
一方で、晴のように無邪気に「今」をぶつけてきてくれる人に救われた経験もある。

だからこそ、この作品はただのフィクションではなく、自分の人生を投影する鏡のように感じるのだ。


感想と余韻

正直に言えば、読んでいて心地よいだけの作品ではない。
むしろ、心の奥を抉られるような苦しさを伴う。
登場人物たちの選択や言葉に共感しながらも、「なぜそこで踏み出せないんだ」と苛立ちを覚えることもある。

しかし、それこそがこの作品の魅力だと思う。
人間は簡単に答えを出せないし、未練や後悔を抱えたまま生きていく。
その“揺らぎ”を真正面から描いているからこそ、読者の心に深く残るのだ。

私は読み終えた後、しばらく夜の街を歩いたことがある。
その時、作中の陸生や晴が隣にいるような気がして、思わず胸が熱くなった。


なぜイエスタデイをうたっては人気なのか

私なりの分析をすると、この作品が支持される理由は以下の通りだ。

  • 青春と大人の間にある“宙ぶらりん”な時間を正面から描いている
  • 恋愛を美化せず、矛盾や未練をそのまま表現している
  • 登場人物の選択に「正解」がないため、読者が自分の経験を重ねやすい
  • 日常の描写が丁寧で、読後に余韻が強く残る

つまり、この作品は「誰にでも訪れる通過点」をリアルに描いているからこそ、多くの人の共感を呼ぶのだと思う。


まとめ

「イエスタデイをうたって」は、青春が終わった後の空虚さと、大人になりきれない曖昧さを描いた物語だ。

陸生、晴、榀子、それぞれの矛盾と未練が絡み合い、決してスッキリとした答えは出ない。
だが、その不確かさこそが人生の真実であり、読者の心を掴んで離さない。

私はこの作品を読むたびに、過去の自分を見つめ直し、今の自分の立ち位置を考えさせられる。
そして、「曖昧でも、不確かでも、それでいい」と思えるようになる。

もしまだ読んでいないなら、この物語を手に取ってほしい。
あなた自身の“昨日”を思い出しながら、きっと胸の奥に忘れかけていた感情が蘇るはずだ。

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