岩泉舞作品集 MY LITTLE PLANET 「大人になった今こそ読みたい幻想短編集」/伝説的短編集に新作を加えた珠玉の1巻。

夜、カーテンの隙間から差し込む街灯の光をぼんやり眺めていると、
ふと思い出すのは、あの美しくも切ない短編群の一篇。
名前を忘れられてしまった少年、「ふろん」──。
それはただの遠い記憶ではなく、少しだけ過去の自分と重なり、
なぜか胸が痛んだのです。

もし今、漫画を読む時間をほんの少し取りたいと思っているなら、
『岩泉舞作品集 MY LITTLE PLANET』は
まるで心の奥の琴線をそっと弾くような体験を与えてくれる一冊。
今日はそんな珠玉の短編集に秘められた魅力を、
あなたにも届くように語りたいと思います。

伝説的短編集『七つの海』が30年ぶりに復活した理由

岩泉舞という名前を知っている人は少ないかもしれません。
でも、1992年に発表された短編集『七つの海』は、
確かにジャンプ誌面で一瞬光った伝説の存在でした。

全6編はいずれもジュブナイルファンタジー風で、
どれも生と死、人と存在、自己と他者を鮮烈に問いかけてくる物語。
30年以上眠っていたその感性は2021年、『MY LITTLE PLANET』として
新作を加えついに復活を果たしました。

当時ファンだった人だけでなく、ネットを通じて新たに発見された読者たち。
その声に後押しされて実現した復刊が、多くの人の心を震わせたのです。

書き下ろし「MY LITTLE PLANET」が描く未来と寓話

表題作「MY LITTLE PLANET」は32ページの短編ながら、
この作品集のテーマそのものを体現しています。

魔法のような技術が架空の惑星を創造し、
その星を健やかに育てる役割を担った二人の少女。

ひとりは意地悪にも星を破壊し続け、もうひとりは
心を込めて星を守ろうとする。

成長した世界を見舞う荒廃と、それでも希望を信じる目線。
この短編は、未来や人間の意志について、静かな問いを投げかけます。

収録作品一覧とそれぞれの魅力

この一冊には1992年当時の6編に加え、未収録作3編、そして新作短編が含まれています。

「ふろん」
クラスメイトから名前を忘れられた少年の物語。
自己とは何か、記憶とは何かを映す鏡のような切なさがあります。

「忘れっぽい鬼」
忘却と記憶の境界を行き来する不思議な存在と少年の交流。
存在の威厳と儚さのバランスが絶妙です。

「たとえ火の中…」
自己犠牲を選ぶ少女と、それを見守る少年の関係。
燃えるような情熱と淡い後悔が胸を締めつけます。

「七つの海」
タイトル篇。子どもの冒険と幻想の交差点を描いたジュブナイル感がたまりません。
地図や幻の岸辺の描写には詩的な美があります。

「COM COP」/「COM COP 2」
未来の世界を舞台にしたSF的短編。
機械と感情、少年と少女の繊細な関係が描かれています。

未収録の「KING」「クリスマスプレゼント」「COM COP~夢みる佳人~」
どれもジャンプ誌掲載作ながら初単行本化。
いずれも短さの中に鮮烈なテーマが込められ、
読者の胸に長らく残ります。

私が何度も読み返した理由と体験談

私はこの作品集を少なくとも三度、心を込めて読み返しています。

一度目は、まずその静けさと詩情に圧倒されました。
二度目には、それぞれの作品が持つ哲学的な問いに心が震え、
三度目には細かなコマ割りや言葉選びを味わい、
まるで一枚の絵画を何度も観るような感動がありました。

特に「ふろん」の結末シーンでは、少年が自分の名前を忘れ、
最後に笑顔で宙へ消えていく様が、自分の過去の忘れてしまった何かと
重なり合い、涙が止まりませんでした。

また新作「MY LITTLE PLANET」の終盤、
グレイスが小さな星に語りかけるシーン。

「私はそれを望む」と呟くその一言に、
人間の意志と希望の重みを感じ、胸が熱くなりました。

なぜ大人になった今こそ読むべき短編集なのか?独自分析

  1. 大人に響くテーマの重層性
     子ども向けに見える物語の下には、生と死、意志と記憶という
     深い問いが隠されている。大人が読むことでその奥行きが増します。
  2. 短編だからこその深みと余韻
     一編30ページ未満だからこそ、一瞬一瞬の言葉と構図が研ぎ澄まされている。
     余白の余韻が心に長く残ります。
  3. 復活の物語も含めたメタ視点の感動
     幻だった作家の物語が再び現れた喜び。
     この“復活”自体が、一つの奇跡として作品集に佇んでいます。
  4. 瑞々しい感性と詩的描写
     淡いタッチの絵柄と行間の余白。
     短編ごとに変わる世界観と色彩感覚が、まるで季節の匂いのように漂います。
  5. 普遍的テーマが世代を超えて響く
     「自己とは何か」「他者との関係」「希望とは何か」。
     20代でも40代でも、それぞれが違う問いを受け取れる構成です.

読むタイミングとおすすめの楽しみ方

この作品集は、夜の静かな時、電気を少し暗くした部屋で読むのが好きです。

窓の外の街灯や少しの風の音が、作品の空気感と響き合い、
読むごとに作品世界が変化するように感じられます。

一気に読むのも良いですが、数日に分けて1編ずつ読み、
その余韻を噛み締めるスタイルもおすすめ。
読むタイミングによって違う感想が出るのも、この作品の魅力です。

最新情報:画業再開と今後への期待

2021年に刊行されたこの作品集は、偶然にもTwitter上でのファンの声から実現。
作者自身も当初は活動を諦めていたと言いますが、
読者の熱意と編集者の後押しで再び走り出しました。

現在は短編集の続編や、電子配信で新作「ミレンさんの壺」なども展開中。
これからも岩泉舞作品が少しずつ増えていく可能性があります。

まとめ

  • 『MY LITTLE PLANET』は、颯爽と復活した伝説的短編集の決定版
  • ジュブナイルファンタジーからSFまで含めた多彩な6+4編収録
  • 表題短編「MY LITTLE PLANET」は未来と意志を問う寓話の傑作
  • 静かな幸福と切なさを同時に押し寄せてくる詩的構成
  • 大人になった今こそ味わえる深みがある作品群

思わずページをめくるたびに心が揺れる感覚。
心のどこかに小さな希望や問いを灯してくれる短編集です。

読む時間を特別なものにしたい人へ、ぜひそっとこの一冊をおすすめします。
あなたの中にも、遠い記憶と新しい感動が交差する、そんな時間が訪れるはずです。

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